私は、これまでいろんな仕事をしてきました。
30代の頃は、牛の飼育をしていました。
(今日のは、ちと長くなるかも…。)


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牛舎の仕事は重労働で きつかったけど、牛は とにかく可愛かった。
個人的な悩みをかかえていた時でも、牛に接していると、心和んできました。


ある夜、牛たちの健康状態を観察するのに、牛舎を見回っていたとき、寒かったし、
(牛って、人間よりも体温が高いんです)
スタンチョンに立っている乳牛の体に、私の背中でもたれかかって、
ため息をついて、涙ぐんだりしてました。
(おとなしい穏やかなコを選んで、ですよ)


すると、そのコは、こちらを向いて、
「どうしたの?」って感じで、私の腕をそっとなめてくれたんです。
「──人間よりも、よほど私の心をわかってくれる、
通じ合える…」
そう思えてきて、ますます泣けてきて、
一人で夜の牛舎で泣いたりしていました。


 (そのコは、何気なくなめたのかも知れない、
  って後で思いましたけどね。)


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ある仔は、産まれたときから身体が弱く、経営係のSさんは、
「これは治療しても無駄」とサジを投げてしまいました。
私は、そのグッタリしている仔を、毎日 目にする訳で、
とても放っておけない。
ミルクに栄養剤を混ぜて、首を抱いて哺乳瓶で飲ませていました。

そして1週間目、
そのミルク飲む力も無くなった…と思ったら、
私の腕の中で、スゥーッと息を引き取ったんです。


私は声を上げて泣きました。ひと目もはばからず。
泣けて泣けて、どうしようもありませんでした。
汗と涙とで、もうグチャグチャ…。


ひとしきり泣き一応落ち着いて、同僚のおじさんに話すと、
「ほうかぁ…、ほんでも…看取ってやれたからなぁ……」。
その言葉に、また涙が溢れてくるのでした。


  私の涙腺は どうも、
  心が通じ合えた、と思ったら緩んでしまうようです。。


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またある時、お腹の大きい牛で、
もう産まれそう、というコが、
なかなか産まれず、しんどそうにしている。


──牛の出産は、正常分娩なら自力で産むので
何の心配も手助けも要らない。
でも、逆子だったりしたら、
獣医レベルの人を呼んで来ないとタイヘンなことになるんです。


私はバイクを飛ばして、Sさんを探して見つけました。
でも、あいにくSさんは手が放せない状況。
「手を入れてみろ。前足か、後足か、分かるやろ!」


──普通なら仔牛は、2本の前足の上に、顔を乗せた格好で産まれてくる。
その前足が確認出来れば良い。
前足と、後足は、膝関節の曲がる向きが違うので分かる。


腹を決めた私はそのコの所に戻り、
バケツに消毒液を作って、片腕をズッポリ消毒。
牛の身体に入れました。
(それまで、見よう見まねで2〜3度やってみたことがある、程度だったんです。)


牛と一体になれたような、
なんともいえない感覚でした──。


何かに触れた。
これは、前足…、と思うな…。
でも、もしかして違ったら…。
いや、これは、前足…、と思う。 前足と、見た。。


そして、祈りながら見守っているうちに、
ちゃんと正常分娩で産まれてくれたのでした。
ああ、良かった〜! ありがとう〜!!!


牛の出産というのは、何度見ても感動するものですが、
これほど心を揺り動かされたのは、後にも先にもあの時だけです。


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頼りないこの私に、いろんな仕事を任せてもらってきたと思います──。
そして、いっぱいいっぱい感動を与えてくれた牛たちには
感謝しきれないのです。